続・安全な国ニッポン
今年の東京の冬は、例年よりも寒かった。
しかし一歩ビルの中に足を踏み入れたり、タクシーに乗り込んだりすると、暖房が強くて頭がぼおっとしてしまった。
私が住んでいるドイツでは、これほど暖房が効いていることはめったにない。
日本に来る前は、「ウォーム・ビズ」のかけ声の下に、オフィスビルの温度を下げると聞いていたが、屋内の温度が低いと感じたことは一度もなかった。
特に暑かったのは、永田町の参議院会館の地下にある食堂で、上着を脱いでワイシャツの袖をまくりあげないと、汗が全身から吹き出るほどだった。
地下鉄やJRの暖房も、ちょっと強すぎるのではないか。
あれだけ座席から下半身を暖められると、どうしても睡魔に襲われる。
ヨーロッパでは、電車の中で熟睡している人を見ることは、ほとんどない。
その理由は暖房が日本ほど強くないということだけではなく、盗難などの危険があるため、電車では居眠りをしない方が無難だからである。
安全といえば、ドイツのスーパーマーケットには、全ての出入り口に商品を万引きされた時に、警報が鳴る機械が取り付けられていることが多い。
エレベーターから地下の車庫に商品が持ち出されるのを防ぐために、エレベーターの中にまでこの「商品感知器」が取り付けられていることもある。
日本のスーパーやデパートでは、このような装置を見ることはめったにない。
もしもドイツのように商品センサーを取り付けたら、客は常に疑われているような気がして、その店に来なくなるかもしれない。
ドイツの経営者は、客への気配りよりも、万引き防止というリスク管理の方を重視しているのだ。
もう一つ、日本は「安全な国だなあ」と思ったのは、成田空港で携帯電話を借りた時のことである。
ドイツなど欧州諸国の携帯電話は、暗証番号を入力しないと、使えない。
盗まれた時に、電話をかけられないようにするためである。
これに対し、日本のほとんどの携帯電話には、暗証番号はいらない。ドイツの仕組みに慣れた人には、日本の携帯電話のシステムはいささか不用心に思えるだろう。
もちろん携帯電話を落としたり、盗まれたりしないにこしたことはないが、その万一の事態に備えるのが、リスク管理である。
また日本の出版社や新聞社では、受付を通過せずに、外部からエレベーターに乗ってまっすぐ編集部に行ける建物が多く、驚いた。
これも欧米の出版社や新聞社では、考えられない「オープンさ」だ。
参議院と衆議院の議員会館でも、荷物検査が全然ないので、驚いた。
ベルリンの議員会館に入る時には、金属探知機を通り抜け、カバンもX線検査を通さなければ、持ち込むことができない。
政治や言論にたずさわる人々が働く場所では、もう少し警備を強化した方が良いのではないだろうか。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
保険毎日新聞 2006年3月